
残らないケースも多いと思います。最終的に選手に自信を持たせてあげられるのは、結局勝たせてあげることしかありません。そのとき初めて自分で答えを見つけることができるわけで、それは人から与えられた答えよりも何倍も意味があることだと思います。
プロ野球選手としての生活を終えたとき、私は2215試合連続出場という記録が残りました。今年の6月11日にアメリカのカル・リプケン選手がこの記録を更新したわけですが、このことについて最近よく「悔しいですか」と聞かれます。私は逆に、同じ事柄を話すことができる人が出てきてくれたという思いです。私はルー・ゲーリックという往年の名選手が2130試合という記録を作っていたことを知っていましたが、自分の記録が2000試合に乗ったときにこの数字を初めて意識しました。この130の差は達成可能だ、自分で頑張らなければいけないと考えたわけです。そして、自分がその数字を越えたとき頭の中によぎったのは、次の人のためにどれだけお手伝いできるかということです。2130試合を越えたとき、リプケン選手は、日本に2215試合という記録を持っている選手がいるということを意識したと思います。ということは、あの数字をめざして頑張るぞという自分の目標が明確になります。そして、記録更新中のリプケン選手は、次の選手のためにその数字をどこまで伸ばしていくかという責任が生まれます。スポーツという世界は、そうやって次から次へと新しい記録が受け継がれていくわけで、そのたびに、以前の選手が悔しいとか寂しいとかということはありません。ある記録を出すまでには本当にいろいろなことがなければいけない。そして、その事柄を分かりあえる相手がやっとできたということです。今回渡米してリプケン選手と話したとき、共通の事柄を話せる人間ができたというわけです。だから、2000試合連続出場ということは一人ではできない、その間にいろいろなことがあり、どれだけ多くの人に助けてもらったかというようなことも共通認識としてお互いに話し合えると思います。
私が成長する過程で大事にしてきたことはいくつかありますが、子供の頃、スポーツ選手は本当に憧れでした。ですから、自分が試合に出るようになり、自分に余裕が生まれたときに考えたのは、子供たちだけは裏切らないようにしようということです。私が周りの大人に育てられたように、私も周りの子供たちを育てられるお手本にならなければいけないと思いました。そのように考えることができるようになったのも、周りの人達のおかげです。何かやりたいと思ったときに、まず自信を持ちなさい。そしてトライしなさい。トライしたらあきらめずに最後まで頑張りなさい。これがきっと野球という世界を通じて衣笠という選手に一番強く教えてくれた事だと思います。子供たちにもそういうことを伝えるように、きっとそういう場面を何回もセッティングしてくれたのではないかと思います。
野球を通じて救われた一人の子供が、時間の経過とともに大きく変化した。だから、スポーツというものをこれからも周りの人が大切にしていってほしいし、また、子供たちにそういうチャンスを何回も与えてあげてほしい。そのように考えながら最近生活しております。どうも長時間ご静聴ありがとうございました。
前ページ 目次へ 次ページ
|

|